Sunday, December 01, 2002

[勝手に中国語講座] 04-不理我・・・



理 [li3] (リー3)は、道理・きめ、あや・理由・処理するなどの他に、構う・相手にするという意味があります。有道理 [yo3 dao4 li3] (ヨウ3 ダオ4 リ3)はよく使われます。「筋だよ」「もっともだよ」なんて感じでしょうか。しかし、
「大行、你不理我」と女性に言われたらビビりますね、それも美麗な女性に。「大行、アナタはワタシを相手にしてくれない」「私に興味がないの」なんてことになります。幸か不幸か、この言葉を投げかけられたとき、私は意味を理解することができませんでした。

台湾のプロジェクトは、ローカルの建築事務所が協力者につきました。その事務所は、銀行を中心としたモダンクラシックな作品をつくるインテリアデザイン事 務所を間借りしたものです。我々日本人スタッフが始めてここに集まったとき、デザイン事務所の所長が懇親会を開いてくれました。宴席の円テーブルで、一人 の女性が私に乾杯のお酒を盛んに勧めてきました。あちらでは杯は一人で空けない、ともに酒を楽しむ、それが乾杯の習慣になっています。背が高く、細面で、 昔の女優でいえば若い頃の中野良子と田中祐子を足して二で割ったような人でした。

間借りの事務所での仕事も軌道に乗り始めた頃、それま で昼食に同席してくれていた台湾のスタッフも、日本人スタッフも運悪く誰もいませんでした。あちらの事務員が「一人で食事はできないでしょう、誰かに案内 させます」で指名されたのがかの女性。いつもとは違って、ローカルのスタッフが利用している小さな食堂風な店。何しろお互い意志疎通が取れません。私の方 はまあすべて彼女にお任せでいました。

言葉もなく、かといって気まずさもなく食事が進んでいたとき、彼女が何かを話しかけてきます。私が鉛筆を取り出し、隣の椅子に散らかっていた新聞紙を手にトントンと指さします。書いてくれと促します。漢字ですから何か解るかと思ったのです。新聞紙の片隅に書かれたのが「你不理我 [ni3 bu4l i3 wo3] (ニィ3 ブ4 リ3 ヲー3)」。推理を働かせますが、その場に相応しい意味は思い浮かんできません。私は首を左右に振ったり傾けたりしますが、彼女は答えがほしいようです。盛んに「イエスかノーか」を繰り返しているようです。

私は仕方なく結論を出します。<アナタはワタシを理解してない>私は彼女のことが解っていないでしょ、ということではないか。<私が彼女のことを解ってい ない>という答え自身も結構行く先が危ぶまれる気配の推論です。食事の席で酒を酌み交わした程度のこと、毎日顔を合わせて会釈をする程度の関係です。個人 的な質問が飛び出すとは思ってもいませんでしたから。私は首を上下に振ります。「そうです」という答えを示しました。

二人の会話はここで終わります。事務所に戻り、日本語が解る人の帰りを待ちます。「你不 理我」がどうしても気になりました。しばらくして私はこの意味を宴曲に理解します。その時のやり取りを話すと、彼が教えてくれたのは「<大行さん、アナタ は彼女の話が分かりますか?>と言っています。話をしたいのでしょう」。いやいい答えでした。おかげでそれ以降落ち着いて仕事を進めることができました。

その時の本当の意味を理解できるようになったのは一年以上たった後、中国語の夜学に通うようになってからです。しかし彼女の会話の内容に関係なく、彼女と は食事に出かけたり、映画を見にいったり、台湾を離れてからも行くたびに連絡を入れたりしていました。彼女はその後、インテリア事務所を開き、経営に失 敗。クラブで資金を稼ぎ失敗を取り戻します。そして彼女本来の魅力を活かしファッションモデルに転身し成功。30歳を過ぎた後は後輩に現場を譲り、モデル 事務所を開いています。